マイクプリを自作するためにLTspiceを使って設計してみた

以前、LTspiceという回路シミュレーターソフトを使うための記事を紹介しました。

LTspiceを使って出費0円でオーディオの電子工作をはじめてみる
お財布の中身が寂しい今日この頃、部品代なし、半田付け不要で電子工作を楽しむことができるフリーのシミュレーターソフト「LTspice」を使って思う存分電子工作を楽しみたいと考えて、Mac版LTspiceについてチュートリアル形式でまとめてみました。

ここ何年か、マイクアンプ回路を製作したいと思ってコツコツと準備をしてきました。基板を眺めながら紙とペンを使って回路図をおこして、ブレッドボードで試作。実際にユニバーサル基板で試作をして、不具合が出たらもう一度作り直し。

なんとも時間にも財布にも優しくない開発をしていたため、マイクプリの製作は遅々として進まず、パーツ代だけが無慈悲に消えていきました。

LTspiceはそんな自作erの救世主たりうるのか?

今回は実際にマイクプリアンプを自作するための準備として、回路図をLTspice上で作成して、素人でもシミュレートができるのか実証してみました。

今回製作するマイクプリアンプ

回路図

回路図はこんな感じ

ここが差動入力になっていて、

 

その後ろにオペアンプの増幅部分がくっついている感じ

差動入力+オペアンプ増幅のシンプルな回路です。

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設計意図

オペアンプの内部には差動入力回路がすでに入っています。

NJM4558  データシートより

ですがオペアンプ内部の差動入力回路はあまり性能が良くないため、S/N比が思うように伸びないことがあります。そんな時にあらかじめ特性の揃ったトランジスタで差動入力回路を組んであげると特性を良くすることが出来ます。

部分的にディスクリートにしてあげて、ICの苦手な部分をカバーするのはよく行われる手法です。

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設計手順

設計仕様

  • 電源電圧・・・±15V
  • 入力インピーダンス・・・最大1kΩ
  • 出力インピーダンス・・・100Ω
  • 増幅率・・・40~50dB

入力インピーダンスから、R1はその10倍程度に設定します。キリのいい数字で10kΩに設定

定電流回路を設定する

Q1は定電流回路として動作します。差動入力段にどれだけ電流を流すかによって回路の雑音特性を決めることができます。

メーカー仕様書より

これは今回使おうと思っているトランジスタのコレクタ電流とノイズのグラフです。入力インピーダンスをカバーできて、NoiseFigure<1dBとなるように電流を設定します。1kΩ以内で使うことが多いので今回は1mAとします。

ダイオードはLtspice内にある電圧降下4.7Vの1N750を使用します。そうすると、R3にかかる電圧は、ベース-エミッタ間の順方向電圧を0.7Vとすると${4.7-0.7=4V}$となります。計算が楽でいいですね。

Q2とQ3にそれぞれ1mAずつ電流を流すので、R3にかかる電流は2mAとなります。

R=V/Iから、R3の抵抗値は

$ \frac {4} {2 \times 10^-3} = 2kΩ $になります。

R2はQ1のベース電流($1mA \times \frac{1}{hfe}$)よりも十分に大きな電流を流す必要があります。割と適当でもいいので、とりあえず1mAとします。電圧は$30-4=26V$なので、$\frac{26}{1 \times 10^-3}=26kΩ$とします。

差動増幅回路の設定

R4、R5を決める

R4とR5は、信号の動作点を決めます。ここにかかる電圧はR3での電圧降下があるので$30-4=26V$です。だいたいその中点の13Vにします。こうすると、信号の振幅を±13Vまでクリップなしにすることができます。

電流はQ1で1mAにしているので、

$R4,5=\frac{13}{1 \times 10^-3} = 13kΩ$になります。

オペアンプ増幅回路の設定

R6、R7の設定

この回路の増幅率は$1+ \frac {R7}{R6}$になります。

とりあえず40dB程度で計算してみます。信号増幅度Xは$dB=20 \log_{10}x$より100となりますが、計算を楽にするために101倍で計算してみます。

また、出力側から見るとR6とR7は直列に繋がってアースに落ちているので、抵抗値が小さいと電流がそっちに逃げてしまいます。出力インピーダンスR8を100Ωにするので、R6とR7の合計を、流れ出す電流が少なくなるように100倍くらいの10.1kくらいにしておきます。(値が半端なのは計算を楽にするためです)

つまり以下の連立方程式を解くと、R6とR7の値が決定します。

$\begin{cases}
1+ \frac {R6}{R7}=101 \\
R6+R7=10.1k
\end{cases}$

$\large R6=10k , R7=100$

R7の値を小さくすると、増幅率が上がります。

位相補償の設定

C1とR6はハイパスフィルターを形成し高周波を素通りさせてくれます。こうすると、高周波部分は負帰還が最大にかかり増幅されなくなります。発振防止が目的で、高周波をどこからカットするかは以下の式で決めることができます。

$\Large F=\frac { 1 } {2πCR}$

ここでは50kHzに設定します。R6は10kΩとしたので

$\Large C=\frac { 1 } {2πFR}=\frac { 1 } {2\times 3.14\times 50\times10^3}$

$C1\fallingdotseq 300pF$

出力段のカップリングコンデンサC9は22μとします。だいたい20〜40μあればオーディオ信号では問題になりません。

これで組み立てに必要な定数がすべて決まりました。

あとはこれをSpiceに落とし込んで実際に動作するか確認してみます。

LTSpiceでの動作確認

LTSpiceの使い方については以前の記事をご覧ください。Spiceコマンドの設定は全く同じです。

LTspiceを使って出費0円でオーディオの電子工作をはじめてみる
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計測地点

実際に設計通りかを確認していきます。

  • の部分は電圧を測定します
  • の部分は電流を測定します

A点 入力信号

1mVの信号のサイン波を入力してみました。

B点 定電流回路の電流値

目的としていた2mAより少し低いですが、まあ問題ないでしょう。狙い通りです。

C点 差動増幅回路

-3V付近を中心に波形がふれています。こちらも狙い通りの挙動であることがわかります。

D点 出力信号

設計通りの100倍に増幅されています。回路的に問題ないことが確認できました。

シミュレートは成功 あとは

LTSpice上での動作は問題なく完了しました。いやあ便利ですね。

ただ、これらはすべて理想素子で行なっています。ICとトランジスタ周りには、発振防止のコンデンサを追加するなど、実際には要所要所で細かい変更が必要になると思います。

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実際に使う素子のデータを持ってきて、より細かいシミュレートも可能です。でも自作するならこの位分かれば問題ないでしょう。勘違いなどもこれですぐに確認できて便利です。

次は実際にブレッドボード上で組んでみたいなあと考えています。