マイク界の”コーラ”? なぜSM58はいまだ定番と言われているのか?

ShureのSM58、通称ゴッパー。定番とかスタンダードを通り越して、さながら空気のようにありふれています。

OMシリーズで有名なマイクメーカー、AUDIXの創設者であるクリフ・キャッスル氏がSM58についてこんなコメントをしています。

「SM58の持つネームバリューは私の想像を越えたもので、例えるとすれば”コーラ”や”クリネックス”のマイクバージョンとも言えるほど浸透していたのです。」 

サウンドハウス 「AUDIXの歴史」より引用

今でこそOMシリーズも定番のマイクとして有名ですが、SM58には相当な苦戦を強いられていたことが伺えます。

なぜSM58がマイク界の”コーラ”となり得たのか?その歴史と音から考えてみます。

SM58の音

家にあるギターをSM58一本で収録したサンプルがこちらになります。

SM58

これがSM58の素の音です。ややこもり気味ですが、60年前に設計されたことを考えると驚きの完成度です。

ShureのサイトではSM58の周波数特性が掲載されています。

ヒビノインターサウンド株式会社 商品紹介ページより

これによると100Hzより下がロールオフしていて、1kHzから8kHzにピークがあり、10kHzからロールオフしています。

低域が早めにロールオフしているのは、近接効果を見越した設計になっているため。

中高域のピークはエンハンス効果を狙ったものと考えられます。

こもりの原因である高域のロールオフは、

  • グリルがあること、
  • ダイナミックマイク自体、高域が苦手であること。
  • 設計が1960年代と古いこと

などを考えれば妥当な数値かと思います。

ギターのような、周波数帯域が広い楽器を録るには無理がありますが、PAの場合は大きな問題にはなりません。ボーカルならなおのことです。

また、軽くイコライジングしてみると、こもりがあまり気にならなくなります。

若干編集したSM58の音

むしろ中高域の音質が良く、全体的に非常に高い完成度を誇っています。

歴史

Shureとは?

アメリカ イリノイ州のシカゴで設立されたShure。

SM58・SM57のイメージから、マイクメーカーとしての印象が強いですが、実は1925年の設立時はラジオパーツの販売店でした。

設立から数年経ってからラジオモジュレーターという、当時のPAシステムで使うためのマイクを開発。

以降さまざまなマイクを作り出すようになります。1939年発売のModel 55は、ガイコツマイクでおなじみですね。

第二次大戦中はアメリカ軍向けのヘッドセットや酸素マスクの供給・レコードプレーヤー用のフォノカートリッジのOEMを行っていたりと、マイクのみならず様々なことを行っていました。

現在もワイヤレスマイク、ミキサー、ヘッドホンなど多岐に渡って市場に参入しています。

SM58 SM57 開発の経緯

1959年発売のModel 545に採用されていた「Unidyne III」という技術。当時初の画期的なUnidirectional (単一指向性) のダイナミックマイクで、以後、Unidyneシリーズのマイクが次々と世に送り出されていきます。

1965年、放送スタジオへの市場進出のためにShureが開発したのが、SM58SM57です。Unidyne IIIの刻印を冠した2本のダイナミックは、スタジオの定番として世界中の音楽シーンに浸透していきました。

マイクの特徴

今なお定番の形状

SM58の全体画像
SM58の全体画像

ダイナミックマイク自体は1940年代には発明されていましたが、この形はSM58が元祖。持ちやすさと丈夫さを兼ね備えたこのデザインは、他社もこぞって導入。2020年の今でもボーカルマイクのスタンダードな形として定着しています。

また、ミリタリー向けの製品開発の経験からか、高い耐久性を備えています。金属製で丈夫な持ち手と特徴的なグリル。高域の特性はやや犠牲になりますが、落下衝突時のダメージを軽減してくれます。

少々落としたくらいでは壊れないタフさは、ライブパフォーマンスにおいてその真価をいかんなく発揮します。

強力な耐入力性能

SM58・SM57の最大入力レベルは150~180dBと非常に大きく、ジェット機の音でさえ歪まないと言われるほど。

現場において、この特性は多いに歓迎されました。

ライブに最適な志向性

側面のスリット
側面のスリット

マイクの側面にあるこのわずかなスリットによって、振動が側面から入ります。これによって収音特性が向きによって変わるようになっています。

話者がいる方向からの音が最大に、横と後ろは小さくなる単一志向を実現しています。

今でこそ当たり前となりましたが、単一志向性のダイナミックマイクは当時としては画期的で、ライブパフォーマンスでのハウリングマージンを大幅に向上させてくれました。

まとめ

  • 耐久性に優れている
  • 単一志向性のためライブパフォーマンスに最適
  • 必要十分な音響特性

SM58よりも性能がいいマイクはたくさんあります。このサイトで紹介しているM80にしても、SM58より高域特性がいいので、よりクリアな音で録音することができます。

しかしながら、SM58の音が悪いとは感じません。SM58でもちゃんと使えば十分にいい音で録音ができます。これがSM58のすごいところ。

60年も前に開発されたのに、今見てもこれといって弱点がない。性能の良いマイクは数あれど、まだまだ十分に張り合える。しかも安い。

まさに代名詞にふさわしい製品と言えるでしょう。

SHURE ( シュアー ) / SM58 定番ダイナミックマイク

「ゴッパー」の相性でおなじみのハンドヘルドボーカルマイク。初めての一本に!サウンドハウスについては解説記事をご覧ください。

マイクの選び方について記事にした時も、初めの一本はやはりSM58が最適という結論に至りました。全てにおいてバランスが良くて勉強になるマイクです。

今も昔も使われているのは製品としてとても良いものだから。まだまだSM58は、標準マイクとして活躍してくれそうです。