ちょっと前にレコーディング雑誌で話題になったリボンマイク。
構造が単純だが扱いが難しく、ダイナミックマイクとコンデンサーマイクに主役を譲り、そのまま歴史に埋もれていくはずだったのですが、独特な音がいいとブームが再燃。各社からリボンマイクの新製品が販売されるようになりました。
私が所有しているのはOktava社のML52-01という機種。
このマイクの音源サンプルといっしょに、リボンマイクの仕組みと特徴について考えていきます。
Oktava ML-52-01について
まずは今回のマイクについて簡単に紹介しておきます。
Oktavaというメーカーに聞き覚えのない方も多いと思いますが、実は1927年創業の歴史あるロシアのマイクメーカーです。(本社はTula(トゥーラ)というロシアの中でもかなり西側にあります。文豪トルストイの家とお墓があるのだとか。)
ペンシル型コンデンサーマイク MK-012、ラージダイアフラムコンデンサーのMK-105なども取り扱っています。リボンマイクはMLシリーズとなります。
リボンマイクの全盛期、日本ではRCAや東芝の製品がシェアを占めていましたが、ブーム再燃の折にOktavaのマイクも雑誌で取り上げられました。
コストパフォーマンスに定評があるメーカーです。
ML52-01は元となったリボンマイクML52をバージョンアップさせた製品。現在はさらにバージョンアップしたML52-02が販売されています。
Altec 639Bを思わせるような、いかつい風貌です。
スペック
仕様
Polar Pattern | Figure of eight |
Frequency Response | 20hz to 20kHz |
Sensitivity | 1,6mV/Pa |
Aluminium Ribbon | 2.5 micron |
Nominal Output Impedance | 300 Ώ |
Rated Load Impedance | 1.5 k Ώ @ 300Ώ 1 k Ώ @ 200Ώ |
Maximum SPL @ 1kHz | > 135dB |
Maximum Output Voltage | 1,2V |
Weight, g | 590 |
Relative Humidity | 85% (25°C) |
Accessories included | Mic holder |
Accessories optional | Shock mount |
周波数特性
製品紹介ページより
リボンマイクの弱点である高域特性を改善したことを売りにしているものの、高域の落ち込みはかなり大きめ。
リボンマイクの音
では早速ですが、家のギターを収録した音源です。
録音環境
- 対象:アコースティックギター
- 使用したDAW:DigitalPerformer10
- オーディオインターフェイス:Apollo Twin DUO
- マイクプリアンプ:オーディオインターフェース内蔵
Shure SM58は個別の記事がありますので、よければそちらもご覧ください。
Oktava ML52-01
Shure SM58
高域は心地よく減衰していて、低域は圧迫感がありません。ダイナミックともコンデンサーとも違う、魅力的なキャラクターです。
刺激少なめの優しい音。といった印象です。少し編集してあげれば十分に使える音になります。
ただ、一聴して分かるようにワイドレンジな収録は得意ではありません。本領を発揮するのは人の声。ボーカルとナレーションです。
残念ながら私には準備ができないので、Youtubeのリンクを貼っておきます。1分27秒からがML52での収録です。(ロシア語ですが、、、)
低域の反応がとてもリニアで、力強い音で録音されています。これがリボンマイクの最大の特徴です。
しかし一体どうしてこんな音で収録できるのか。リボンマイクの構造から秘密を探っていきます。
仕組み
リボンマイクの構造
もし構造を知らないと言う方はお読みください。知ってたら飛ばしてください。
まずはダイナミックマイクについて復習してみましょう。
ダイアフラムが振動することで、くっついているボイスコイルがいっしょに振動して磁界の中を動くことで電流を発生させるのがダイナミックマイクでしたよね?
でもどうしてわざわざダイアフラムとコイルを分けているのでしょうか?ダイアフラムを金属製の振動板にしてしまえばいい気がします。
折り曲げられたギザギザの振動板が固定され、磁石で挟まれています。音が入ってくると、金属板がバネのように振動して、電磁力で電流を発生させます。シンプルですね。
ということで、これがリボンマイクの基本構造です。もともとリボンマイクのほうが先に開発されているので、この書き方だと変ですが、、、
空気の速度(Velocity)を電圧に変換することから、ベロシティマイクとも呼ばれています。(略してベロマイク)
リボンマイクの構造状の欠点
脆い
シンプルで良いはずなのに、ダイナミックマイクがわざわざダイアフラムとコイルを分けた理由。それは何より耐久性がなかったためでした。
非常に薄い金属で出来たダイアフラムは、落とすなんて絶対NG。そしてちょっとした風圧で簡単に伸びてしまいます。吹かれに弱いということは大音量の収録は不向き。出来なくはないが細心の注意を払う必要があります。
さらに、横向きにして置いておくだけで重力に負けて金属が伸びてくる。高温・多湿もNGと、とにかく弱い。扱いが非常に面倒です。
コンデンサーマイクのダイアフラムも薄いですが、金属ではないしヒダなんてありませんので伸びる心配はありません。
でかい
細長いダイアフラムを囲うように、巨大なマグネットを配置するのでどうしても大きくなりがちです。なかなかに迫力がありますので、場合によってはそれがネックになることがあるでしょう。
音が小さい
構造上、ダイアフラムに大きなエネルギーをかけることができません。そのため信号レベルはとても小さくなってしまいます。コンデンサーマイク のようにプリアンプもついていないためハイゲインでS/Nの良いマイクアンプか、リボンマイク用のブースターアンプが必要になってきます。
今回の収録で使用したApollo Twinのマイクアンプはゲインが60dB、S/Nも良いはずですが、ノイズが乗ってしまっています。ブースターなしだと80dB以上のハイゲインアンプが必要かもしれません。
音の特徴
構造による音の特徴
リボンマイクと他のマイクでは、ダイアフラムの素材が違うこともありますが、ダイアフラムにかかる張力が全く異なります。
ピンと張った針金と、同じ長さのバネとをはじいた時の音を想像してみてください。
針金は力強い音になりますが、いくら強く弾いてもあるところから振幅が変化しなくなります。
一方、バネの方は弱々しく小さな音ですが、強く弾くとかなりのところまで追従して「ブーン」と低い周波数まで出せますよね。
リボンマイクの仕組みはバネによく似ているため、高域は苦手だが低域の追従性が良いという特徴になります。
リボンマイクの指向性
リボンマイクは構造上、前面と背面から音を拾う双指向性です。つまり背面から反射音なりノイズを拾ってくるため宅録では注意が必要です。初めのうちはマイキングで苦戦するかもしれません。
ただ、双指向性はうまく利用すると大変便利なことがありますので、興味がある方は研究してみてください。
近接効果について
また、収録対象との距離感が他のマイクの感覚と異なります。近接効果が強く出るため、ダイナミックマイクのようにオンマイク収録するとこんな音になります。
低域がモッコモコですね。リボンマイクのマイキングは普段よりも距離をとる方が良い結果が出ます。いろいろカット&トライしてみてください。
現代のリボンマイク
「でかい」「音ちいさい」「脆い」というのが、従来のリボンマイクの常識でした。しかし最近ではその常識を覆す高性能なリボンマイクが登場しています。
SHURE の KSM353のように、耐久性の高いモデルや、beyerdynamic の M160は、リボンマイクでありながら単一指向性になっていて、より扱いやすくなっています。
また、アクティブ・リボンとよばれるタイプは、初めからプリアンプが内蔵されているため、S/Nに悩まされることなく扱うことができます。
オーソドックスなリボンマイクもいいですが、扱いやすい最新設計のリボンマイクから使い始めてみてもいいかもしれません。
まとめ
- オーソドックスなリボンマイクは壊れやすく扱いが難しい
- 双指向性で、近接効果が強い。マイキングにクセがある
- 低域のリニアリティが良いが高域はちょっと苦手
- 他にはないキャラクターで、特にボーカル・ナレーションに最適
- 現在は扱いやすい新設計の製品が出回っている
人の声の他にも、サックスやエレキギターのようなリード楽器に使っても良い結果を得られるでしょう(壊れないように注意が必要ですが、、、)。マルチマイクにして、低域を担当させてあげればとてもリニアな音を得ることもできます。
双指向性ということは、もう一本単一指向性のマイクを準備すればMS録音が簡単に出来ます。試してみるとなかなか面白いですよ。
リボンマイク一本だけしかないと使い勝手が悪いですが、他のマイクと組み合わせると使い道が出てきます。2本目、3本目に持つと面白いですよ?