最近、オーディオミキサーの売り文句に「フルディスクリートのマイクアンプ搭載!」なる謳い文句をよく見かけるようになりました。
卓内の信号処理がデジタルに置き換わっていく中で、数少なくなったアナログ回路を見直そうという動きはとても良いことだと感じます。
ただどうも、「ディスクリート=音がいい」みたいな先入観をメーカーが消費者に擦り付けようとしているように見えなくもありません。必ずしもディスクリートの方が音がいいわけではないということを今回は話してみたいと思います。
そもそもディスクリートって何?
discrete:分離した、個別的な、別々の、不連続の
単語の意味としては「個別の」という意味です。電子回路の話でディスクリートといえば、ICのような集積回路の対義語として使われます。つまりICは使わずトランジスタと受動部品(抵抗、コンデンサなど)のみで作られている=ディスクリートということができます。
ICとディスクリートでは何が違う?
違いはありません、やっていることはほぼ同じです。
オーディオ回路で使われるICの筆頭といえばオペアンプICです。上の画像はNJM4558というオペアンプICの等価回路です。ICと言っても特別なことをしているわけではありません。結局内部はトランジスタを集積させているだけですので、やっていることは同じです。(厳密には違う!という声もあるかと思いますがややこしくなるので今回は触れません)
逆にいうと、この通りにトランジスタだけで回路を作って「ディスクリートです!」と言うことも出来ます(初期のオペアンプ自体ICではなく真空管やトランジスタを使ったディスクリートで構成されていました)
ディスクリートにするメリットって何?
これが今回の話で一番重要なポイントです。簡単にいうと「要求にあわせて極限までチューニングできる」ことが、マイクプリアンプをディスクリートにする最大のメリットです。
オペアンプICはどんな用途でも発振しないように設計されていますが、この時に性能をある程度犠牲にしています。(特にゲインと周波数特性については発振とトレードオフの関係にあるため、かなり低い値になっている場合がある)
これに対してディスクリートで組んだ場合は、用途を絞った回路設計ができるため性能を限界まで引き出すことができるようになります。特にSR(スルーレート)やダイナミックレンジ、周波数特性などの項目は設計次第でICを遥かに凌ぐ性能にすることができます。
で、ディスクリートを売り文句にしているメーカーは、IC以上の性能を発揮できるだけの設計ができているのか?ということを最近疑問に感じているわけです。
ディスクリートのデメリットは?
ディスクリート回路は自由度が高い分、設計次第で一流にも三流にもなります。有名なオペアンプICのような実績もないわけですから、メーカーのマイクプリアンプを設計する能力を信頼するしかありません。メーカーにノウハウがなければ、その性能はIC並みか下手すればIC以下になることもあり得ます。
さらに、近年ディスクリート並みに高性能なオーディオ向けオペアンプも販売されるようになりました。
腕さえ良ければICだろうがディスクリートだろうがいい音にできます。
結局何を信じたら良いの?
面倒かもしれませんが、ICかディスクリートかにこだわらずスペック表に書いてある入力特性をきちんと読みましょう。言葉だけでスペックもロクに買いてないような商品は相手にするべきではありません。
確認しておきたい仕様
- 周波数特性
- 増幅レベル
- ダイナミックレンジ
- 最大入力レベル
- THD+N
- S/N比
もし書いてあれば確認したいスペック
- CMRR
- 等価入力雑音(Equivalent Input Noise)
メーカーによって表記の仕方も微妙に違ったりしますし、中にはスペックを良く見せるために測定条件を緩くしているようなズルいメーカーもいますので注意が必要です。
正直これらのスペックの意味を理解するのは大変です。でも、良いコンソールとなると高い買い物になります。頻繁に買い換えるものでもありませんので言葉やレビューに惑わされずに自分にとっての最高のパートナーを見つけられるように理論武装しておきましょう。