スピーカーのスペックに書いてある能率。〜dBと書かれていますが、これがなんなのかご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
値は製品によって違っていて、下は80dBから上は100dBを超えるものもあります。
能率とは何か、この値が違うと何が変わるのか。フルレンジスピーカーを例に解説していきます。
※フルレンジスピーカーと書いたのは、スピーカーの能率がフルレンジユニットもしくはウーファーの能率で記載されているからです。ホーンドライバーやツイーターは能率が100dBを超えることが普通で、マルチウェイスピーカーではホーンドライバーとツイーターへの入力はネットワークでアッテネートさせてフルレンジとの整合を取るようになっています。
スピーカーの能率とは?
能率の定義はメーカーごとに微妙に違いますが、大雑把にまとめると、
アンプから1Wの信号をスピーカーへ入力したときに、1m離れた場所での音量(dB)
のことを言います。この値が高い方が高能率。低いと低能率になります。
高い・低いの線引きはどこから?
80dBなら低い。100dBを超えていれば高いと言えますが、明確にどこからという線引きは、時代によって変化します。
一昔前は90dB後半〜100dB程度が標準的な能率でした。最近は80dB後半〜90dB半ばの製品を多く見かけます。
ネットや書籍で見かける「最近のスピーカーは能率が低い」という意見はこうした傾向を根拠にしていると考えられます。
なぜ能率が下がってきているのかは後述。
値が違うと何が変わる?
必要なパワーアンプの出力が大きく変わってきます。
例をとって考えてみましょう。他のスペックが全く同じで、能率97dBのスピーカーと100dBのスピーカーがあったとします。
この2つのスピーカーから、それぞれ1m地点で120dBの音圧を出そうとした際に必要となる出力は
100dBの場合
$120 – 100 =20dB$
$20dB = 10\log_{ 10 } 10^2$
$\therefore 10^2 = 100$
となって100W
97dBの場合
$120-97=23dB$
$23dB = 10\log_{10}10^2+10\log_{10}10^{0.3}$
$10^{0.3} \fallingdotseq 2$
$\therefore 10^2 \times 2=200$
となって200Wになります。
たった3dBしか違わないのに出力は2倍変わってきてしまいます。100W違うって結構大きいですよね?
低能率スピーカーはパワーアンプの出力が大きくないと鳴らない。この点を覚えておきましょう。
なぜ能率にはばらつきがあるのか?
能率が低いと大出力のアンプが必要になるのなら、高能率のスピーカーを選んだ方がいいと思いますよね。
ですが市販の低能率スピーカーはある理由があって、あえて能率を落としています。
その理由とは、周波数特性を広くしつつスピーカーをコンパクトにできるからです。
どういうことか説明すると、例えばフルレンジスピーカーの周波数特性がこんな感じだったとします。この場合、使用できる下限周波数は-3dBとなる80Hzまでといったところです。
これより低域を伸ばすには、ユニットのサイズを大きくするか、サブウーファーを追加することになります。
ところが、このスピーカーの能率を3dB落とすとどうなるでしょうか?
低域の特性がちょっと下に伸びましたね?
スピーカーの能率を落とすことで、ユニットサイズを大きくしないで、より低域の特性を伸ばすことが出来ます。
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音はどっちがいいの?
比較できません
経験的に、両者は音の傾向が違うように感じます。論評しているサイトもよく見かけます。
が、能率が違うとアンプの出力が変わるため全く同じ条件での比較ができません。そのためスピーカー単体でどっちが良いとは言い切れないと私は考えています。
ですがここで、ちょっと視点を変えてパワーアンプから見たそれぞれのスピーカーの違いを考えてみます。
- 低能率スピーカーはアンプへの負担が大きい
- 能率の高いスピーカーは、アンプへの負担が少ない
能率の低いスピーカーでは高能率スピーカーと比べて流れる電流が多くなるためアンプ側の負荷が重くなります。
立ち上がりの早い音や低域ほど電流変化が大きいので、能率の低いスピーカーは立ち上がり・低域の再生に問題が出やすくなります。
ドラムの音のような大きくて瞬間的なピーク成分が入ると電流が変化に追従できなくなる→波形がへこたれやすい。つまり能率の低いスピーカーの音質はアンプの性能(電流供給能力)に左右されやすいと言えます。
アンプと負荷のインピーダンスの関係についてはヘッドホンの記事でも紹介しています。
もともとスピーカーはヘッドホンなどと違いユニットが大きいため、元の場所に戻ろうとする力(機械抵抗)も大きくなります。なので能率うんぬん関係なくアンプ側が十分な電流供給能力を持っておく必要があります。
アンプの電流供給能力を示す指標として用いられるのがダンピングファクターという値です。値が大きいほど供給能力は高くなります。
最近のスピーカーで、ユニット径12インチ以上のウーファーや、小口径でも能率が80dB後半〜90dB半ばであれば、ダンピングファクターが300以上あるアンプを使うのがオススメです。
CROWN(AMCRON) ( クラウン(アムクロン) ) / XTi 2002
QSC ( キューエスシー ) / PLX2502 ステレオ・パワーアンプ
いずれもダンピングファクターは500以上になっています。昔と違って重さも10kg以下なので運びやすいです。
私はQSC PLX2502を使っています。18インチのウーファーでもしっかりドライブしてくれる頼もしいやつです。
【余談】
中にはダンピングファクターが2000とかいうアンプも存在しますが、あれは野外で4パラとかした時にダンピングファクター500を確保できるようにしているものです。
1台しか接続しないなら、ダンピングファクターは500もあれば十分です。
まとめ
スピーカーの能率が違うと・・・
- 能率が80dB後半〜90dB半ばのスピーカー → コンパクトだがアンプはいいものを
- 能率が90後半〜100のスピーカー → 大型化しがち
ざっくりいうと、こんな感じのお話でした。
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