スピーカー記事で何度か取り上げてきた「位相」というパラメーター。意外と音質への影響が大きいので、私は周波数特性よりも重視しています。ですが位相と音質の関係はあまり取り上げられていないように感じました。私自身十分に検証できていなかった部分でもあったので、今回は位相について実験を交えてまとめてみることにしました。
ネットの記事の中には、スピーカーの極性(プラスマイナス)や、設置位置についての説明に位相を用いているケースを見かけました。今回この記事で取り上げる位相は少し違った切り口となりますので、混同しないようにご注意ください。
位相とは
位相とは入力信号と出力信号の時間軸方向のずれのことです。
例えば図のような音をアンプに入力したとします。
理想的な機器であれば入力した波形は振幅だけが大きくなって出てきます。
ところが実際の機器の場合、図のように波形自体がずれてしまうことがあります。
これを位相がまわっている状態といいます。位相がまわる理由はいろいろあって、例をあげると
- 機材の内部にあるコンデンサ・コイル
- ケーブルの線間容量
- スピーカーのクロスオーバー
- マルチユニットに起因する耳からの距離の違い
などが主な要因としてあげられます。
位相がずれると何が起こる?
一言で言うと音質が変化します。定位が変化したと感じる場合もあります。
スピーカーのように同じ音が複数のポイントから出力されていて。位相特性が周波数によって一定ではない場合に打ち消しあったり、逆に増強しあうため、結果として音質や定位に変化が起こります。
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位相ずれの実験
では簡単な音を作ってみて、どのくらい影響があるのか確認してみます。
実験方法
- アコースティックギターの音を収録
- rePhaseというアプリで位相特性を適当に乱したデータを生成する
- EqualizerAPOというアプリを使ってWindowsPCの出力にデータを適用する
- WindowsPCの出力をMacにて収録
- 位相調整ありの音となしの音を比較する
ePhase、EqualizerAPOともにWIndowsのみの対応だったため、このような方法をとっています。
WindowsPC用のインターフェースをもっていないため、Lineアウトからの出力を収録しています。PCの内部ノイズが盛大に乗っていますがご容赦ください。
違いはヘッドホンで聞いた方がわかりやすいかと思います。
作成した音源
位相調整なし(元の音)
位相をずらした音
僅かな差ですが、高域の聞こえ方が変化しているのがお分かりいただけるでしょうか?
位相がずれている波形の方が、定位が広く篭っているような印象を受けます。
混ぜてみる
単体で聞くと実に微妙な違いですが、位相ずれが本当に牙を向くのは元の音と混ざってしまった時です。
元の音と 位相をずらした音を混ぜた音
元の音と比較すると位相ずれの音をミックスした方がかなり篭ってしまっています。
イコライザーなどのエフェクターは、回路の中で元の音とエフェクトをかけた音をミックスしています。エフェクトを掛ける回路内の位相特性が悪いと、ミックスした時に干渉が起こってしまい、こうした音になってしまいます。
スピーカーの場合
スピーカーの場合も同じようなことは起こります。例えばツイーターとウーファーの位相がずれていることで、クロスオーバー周辺でツイーターとウーファーの音が干渉して音質に悪影響を与えてしまいます。
ちなみにこの音源は左に元の音、右に位相をずらした音を配置したものです。
元はモノラル収録した音源なのに、位相をずらした音を混ぜた途端に定位が左にずれてしまっています。位相ずれは定位にも影響を及ぼします。
こうした状況は、機材やスピーカーなどで、左右の位相特性が揃っていないときに起こります。
位相が語られないわけ
スピーカーやヘッドホンを購入する際、周波数はよく話に上がるのに、なぜか位相の話題はあまり持ち上がりません。
その理由として、まずスピーカーの場合は位相特性を完璧にするということは非常に難しい(というか無理)ということが挙げられます。
仮に位相特性がフラットなスピーカーを、完璧な配置で置いたとしても、フラットな位置から少しでも動いてしまえば左右の到達距離に差が出て、フラットではなくなります。
そして、屋内の場合はしっかりデッドニングを施していないと、壁などの障害物からの反射波が戻ってきますので、それによって位相に乱れが生じます。
どちらかというと、スピーカーが原因になることよりも、空間に起因する位相の乱れの方が深刻になることの方が多いです。なので本当にちゃんとしようとすると、部屋をなんとかしなければならず現実的な話にならないことが多いです。
記事の主旨とは矛盾するようですが、スピーカーの場合はあまりシビアに考えずに可能な範囲で対策するくらいにしておきましょう。
ヘッドホンでしたら、スピーカーのような問題は発生しないため、位相特性がしっかりしたモニター環境はヘッドホンを併用すると良いです。
また、位相については気づきにくい上に、知らないと気がつかないということも話題にあがらない理由の一つではないかと思います。
相当酷い場合は聞いていて気持ち悪くなるのですぐにわかります。しかし大抵は単体で聴くぶんには違和感のない程度のずれがほとんどです。この場合、位相が整っている音を知っていないと位相ずれに気づくことはできません。
鑑賞目的であれば、聞いていて違和感を感じなければそれでいいのですが、モニター環境の場合は音質に関わる部分になりますので、考慮しなければならない部分だと思います。
とはいえ位相の整った再生環境をスピーカーで実現するのはなかなか大変なので、やはり位相特性に優れているヘッドホンなどが手軽な判断材料になります。私が使っているのはHD650というヘッドホンです。
HD650は位相特性に優れていて、その他の特性についても良好なので、リファレンスとしては定番ともいえるヘッドホンです。
当ブログで測定データを掲載していますのでよければご覧ください。
SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / HD650
あらゆるジャンルとの親和性が高く、クラシックからロックまでオールマイティにこなす優れもの!フィット感も抜群!
サウンドハウスについては解説記事をご覧ください。
測定データを掲載してくださっているサイト
ボリュームのある記事ですが他のヘッドホンのデータも数多く掲載されていますのでとても参考になります。
最後に
いかがでしたでしょうか。多少なりとも位相について知っていただけたのでしたら幸いです。ご自宅のリスニング環境がどんな特性かをPCを使って測定できるREWという測定ソフトの紹介記事も書いていますので、そちらも是非ご覧ください。
いくら周波数特性が優秀でも、位相特性がボロボロだとモニターとして機能しません。リファレンスを謳っている商品でもそういったものは多いので注意が必要です。購入される際は有志の方の測定データを一度探されてみることをおすすめします。