オーディオ機器のコンデンサは、「ハイグレードのものに交換しました」とかいう記事を見かけるくらいには改造の中ではポピュラーな部品です。
でも仕組みを知らずに改造していたら、音にはかえって逆効果でしたなんてこともあるかもしれません。
ということで今回はコンデンサの仕組みと音への影響を記事にしてみました。
コンデンサとは
コンデンサは電荷を蓄えておける素子で、交流を入力すると出力側にも電流が発生する特徴がある素子です。
中身はこんな感じ
金属の板が2枚向かい合っている構造になっています。この2枚の金属板は電荷を貯めておくことが出来ます。貯めておくことができる電荷の量のことをF(ファラド)と言います。ファラドは値が大きずぎるため身近に見かけるコンデンサの値にはμF(マイクロファラド)やpF(ピコファラド)が用いられます。
コンデンサの種類
種類についてはこちらのサイトをご覧ください。
容量や使用する温度などで種類が分かれています。また、プラスマイナスが決まっているコンデンサとそうでないコンデンサがあります。電源回路などで見かける巨大なコンデンサは電解コンデンサと言って、プラスマイナスが決まっています。うっかり逆につなぐとケミカルな煙を吹きながら火花を吹いたり破裂するので注意しましょう。
交流信号入力時の振る舞い
さて、コンデンサの特徴として
- 交流は流す
- 直流は流さない
と聞いたことがある方がいるかもしれません。しかしコンデンサはご覧の通り絶縁状態のため本来直流も交流も流れていません。ではなぜ交流を通すと表現されるかは、交流信号を入力した時の振る舞いを見るとわかります。
信号入力時の動作
信号が入ってくる
入ってきた側が帯電する
反対側が逆の電荷になり、入力と同様の電流が発生する。
さらにここへマイナスの信号が入ってきても
同様の振る舞いをします
といった風に、入力された信号に対応して出力する側の電荷が変化する→電流が発生するため、見かけ上交流信号を通しているように振る舞います。ちなみに直流は通さないというのも若干違っていて、コンデンサが充電されるまでの間にちょっとだけ電荷が移動して電流が発生します。
コンデンサは周波数が0Hz、つまり直流に近くなるほど電流が流れにくくなります。周波数によって流れやすさが変化する抵抗成分のことをインピーダンスといいます。
オーディオ機器のコンデンサ
オーディオ機器の回路で使われるコンデンサの代表的な機能の一覧です。
カップリング
例えば図のように電圧レベルの違う回路同士を接続したいとします。そのままでは接続できませんが、間にコンデンサを挟んであげると直流をカットしてくれるため問題なく接続することができます。こういった使い方をしているコンデンサをカップリングコンデンサといいます。
カップリングコンデンサは回路内だけではなく、意図しない直流をカットするために、機器の入出力部分には必ずと言っていいほど使われています。
平滑化(直流安定化)・デカップリング
電源回路で図のようにグランドに並列に接続してあげると、コンデンサは電荷を溜め込んでくれます。なにかの弾みで電圧が下がっても一瞬ならコンデンサに蓄積していた電荷を吐き出すことで足りない分をカバーしてくれるため、直流電圧が安定します。アンプなどでよく見かける大型コンデンサは大抵この平滑化のためのコンデンサです。
また、ICの近くに同じようにして容量の小さいコンデンサを置いてあげると、交流ノイズをグランドに逃がしてICの発振を防止する効果をもたらしてくれます。こうした使い方の際にはデカップリングコンデンサと呼ばれます。
ローパスフィルター回路
この回路はローパスフィルタ(高域を遮断するフィルタ)として機能します。(ちなみに抵抗がコイルに置き換わると、バンドパスフィルターになります)
これは交流の周波数が上がるほどコンデンサのインピーダンス(交流における周波数成分を持った抵抗値)が下がってグランドに信号が逃げてしまうためです。この回路の遮断周波数は次式で表されます。
$\Large F=\frac { 1 } {2πCR}$
$F:周波数\,C:コンデンサ容量\,R:抵抗値$
ハイパスフィルター回路
ローパスフィルタとはコンデンサと抵抗の位置が逆になっています。こうなると今度は低域を遮断するハイパスフィルタとして機能するようになります。遮断周波数は先ほどと同じ式で計算できます。
$\Large F=\frac { 1 } {2πCR}$
$F:周波数\,C:コンデンサ容量\,R:抵抗値$
機器の入力部分にはカップリングコンデンサが必ず入っていると話しましたが、グランドに抵抗を落とすのも回路設計のセオリーなので、半強制的にこの回路が出来てしまいます。(信号経路とグランドを高めの抵抗で結んであげることで、直流ドリフトと呼ばれる現象を回避する効果があります)
入出力で使われるケーブルが細かったり100mなど長くなってくると、ケーブルがコンデンサとして機能してしまい(容量性負荷といいます)、意図せずハイパスフィルタやローパスフィルタを形成してしまうことがあります。
コンデンサが位相に影響を与えるのは、特にこのフィルター回路の時です。ということでフィルタ回路で位相がどのように変化するのかを見てみましょう。
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位相に与える影響
ローパスフィルターが位相に与える影響を実験で確認してみます。
今回の実験はR=100Ω、C=3.3μFで行いました。この場合のカットオフ(信号レベルが-3dBになる地点)周波数は約482Hzとなります。
今回測定する周波数は以下の3箇所です。
- 100Hz:カットオフ周波数前
- 482Hz:カットオフ周波数
- 2kHz:カットオフ周波数より上
100Hz:カットオフ周波数前
カットオフ周波数のだいぶ手前ですが、すでに若干位相が変化してきています。
482Hz:カットオフ周波数
カットオフ周波数においての位相変化量は45度となります。ちょうど1/8波長程ずれているのが確認できます。
2kHz:カットオフ周波数より上
カットオフ周波数以降の位相変化量は90度に収束します。
このようにカットオフ周波数を境に位相がずれてしまいます。カットオフしていても完全に無音になっているわけではありませんので位相がまわった音が残ってしまうことになります。
位相ずれが音に与える影響についてはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
- 音質に影響が出やすいのはフィルター回路
- フィルター回路では位相が変化する
- フィルター回路は意図せず出来てしまうことがある
ご自身のシステムに細くて長〜いケーブルはありませんか?容量性負荷は何かとトラブルの元になりますので、特に業務の時にはできるだけ原因を取り除いておきたいものです。知らなかった方はこれを機に見直してみてください。