ヘッドホンのインピーダンスの違いは音にどう影響するのか?

ヘッドホンのスペックをよく見ていると、インピーダンスなる項目があります。

このインピーダンス、高い方がいいのか低い方がいいのか。そもそもインピーダンスってなんなのか?気になる方が多いのではないでしょうか?

音質のことを話し出すと泥沼にはまりますので、今回は電気的な視点から両者の違いを解説したいと思います。(とかいいつつ音質のこともふれちゃってます)

インピーダンスとは?

直流における抵抗(レジスタンス)を実数部、コイルやコンデンサによる擬似的な抵抗(リアクタンス)を虚数部とする複素数で表される。抵抗と同様、値が大きいほど電流が流れにくいことを表す。

IT用語辞典より

はい、なんだか難しく書かれています。分かりにくいですね!ざっくり言うとインピーダンスとは、交流における抵抗値(電流の流れにくさ)のことです。

「あれ?直流の抵抗値となにか違うの?」と思われるかもしれません。交流では周波数の違いで抵抗値が変わってしまうため、直流とは分けて考える必要があるのです。

抵抗・コンデンサ・コイルを例に各素子の抵抗値の違いを直流・交流でそれぞれ見てみましょう。

素子抵抗値
直流交流
抵抗ほぼ 一定ほぼ 一定
コイルほぼ 流れる周波数が高いと抵抗値が上がる
コンデンサほぼ 流れない周波数が低いと抵抗値が上がる

※「ほぼ」が付いているのは大人の事情です!(嘘です、理想素子ではこうなるが実際の素子はちょっと振る舞いが違うためこのような表現になっています)

こうしてみると直流では値が変わらない素子が、交流になると周波数で振る舞いを変えていることがわかると思います。(ちなみに周波数が高いと抵抗値が上がることをインダクタンス。低いと抵抗値が上がることをリアクタンスと言います。)

コンデンサの挙動については以下の記事でも触れています。

オーディオ機器でのコンデンサの使われ方と位相に与える影響について
機材の中を覗くとあちこちに見える円筒形のパーツ、コンデンサ。大切な役割を持つ回路には欠かせない存在ですが、安易に使うと音に悪い影響を及ぼします。そんなコンデンサの仕組みと音への影響を記事にしてみました。

ヘッドホンのインピーダンスについて

でもヘッドホンのインピーダンスは「〇〇Ω」って書いてるじゃん。あれって一定じゃないの?と思われた方は鋭いです。あれ実は一定ではありません。

HD650

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私の使っているHD650の特性を測ってくれている海外サイトです。HD650のインピーダンスは300Ωと書かれていますが、サイトを見ると、100Hzあたりで500Ωまで上昇していますよね。メーカーのスペックは、例えば1kHzとかポイントを決めて便宜的に書いているだけです。インピーダンスが変化している部分では音の振る舞いがちょっと変わってくるのですが、ここでは割愛します。

インピーダンスの違いについて

さてここからが本題。インピーダンスの違いはヘッドホンの振る舞いにどう影響するのでしょうか?電気的な視点から見ていきます。

例として500mWの出力を得るために必要な電圧と電流を、32Ωと300Ωのヘッドホンで比べてみましょう。(小数点以下切り捨てています)

インピーダンス電圧(V)電流(mA)
300Ω1241
32Ω4125
  • インピーダンスが高いと・・・電圧が高く、電流が少ない
  • インピーダンスが低いと・・・電圧が低く、電流が多い

このように必要になる電圧と電流が異なってきます。ここでポイントなのが、アンプの電流は急に増やすのが難しいという点です。

高砂製作所~電源機器・通信機器を提供
高砂製作所は1950年(昭和25年)創業以来、産業用電源機器、通信システム機器など幅広い分野で技術力の高い製品を供給しています。妥協を許さない最先端テクノロジーへのこだわりと社会と企業の共存共栄を目指します。

この記事に書いてある通り、どんな機器でも瞬間的に大きな電流が流れると一瞬 電圧がドロップします。つまり短い大きな音が入った時に

こういう波形が

お辞儀してこんな波形になっているおそれがあるということ

ハイインピーダンスヘッドホンは、流れる電流が少ないのでこの影響を最小限に抑えることが出来ます。波形の再現性で有利になるので、モニター用途として好材料になります。

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音量の違いについて

そんなハイインピーダンスヘッドホンですが、アンプを通しても音が小さいという話をよく聞きます。これはなぜでしょう?

先ほどハイインピーダンスのヘッドホンでは必要な電圧が大きいと書きました。実はこれが、音が小さい原因になります。というのも、アンプは電源電圧を超えてヘッドホンに電圧を供給できないのです。(一応、昇圧回路を使えば電圧をあげることは可能。ただその分電流は減る。減った時の弊害は上で書いた通り)

ポータブルアンプに使われている電池だと電圧は5Vほど。波形再生には正負電源がいるので5Vを真ん中で分割して±2.5V。アンプの駆動に必要な電圧を差し引くと供給できる電圧は±2V強が限界となります。これでは300Ωのヘッドホンを500mWで鳴らす12Vには全然足りません。(実際に鳴らす時には500mWは大きすぎ。せいぜい60mWもあれば足りますがそれでも4Vは必要。やっぱり足りない)

ハイインピーダンスヘッドホンは、それなりに駆動力のあるアンプが必要になります。ヘッドホンアンプといえば、RMEが発売しているADI-2という機種が気になっています。

RME ( アールエムイー ) / ADI-2 DAC

RME ( アールエムイー ) / ADI-2 DAC

シンプルな操作性に加えて最高の音質を両立した、最上位のDAC / ヘッドフォン・アンプ

出力インピーダンスが0.1Ωと低く、負荷100Ω以上でも10V出力が可能。ハイインピーダンスヘッドホンがしっかり駆動できて、おまけでDACも付いてくる。

この手のアンプにしては手頃な価格なのでおすすめです。

対して、インピーダンスの低いヘッドホンでしたら、必要な電圧が少ないので大抵の機器で十分な音量を得られます。どんな環境でも自分のヘッドホンでモニターできるという点ではインピーダンスが低い方が便利です。

SONYのCD900STはインピーダンス64Ωと低めです。測定記事も掲載しています。よろしければそちらもご覧ください。

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まとめ

ローインピーダンスヘッドホン

  • 波形の再現性:△
  • どんな環境でも鳴る

ハイインピーダンスヘッドホン

  • 波形の再現性:○
  • 鳴らすためにはそれなりの環境がいる

わたしはHD650がとても好きですけど、最近ハイインピーダンスヘッドホンが少なくなっているのでちょっとさみしいです。再生環境を選ばない、便利なローインピーダンスヘッドホンの方が一般受けするから仕方ないといえばそうなのですが、やっぱり600Ωとか300Ωのヘッドホンの音も魅力的です。

SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / HD650

あらゆるジャンルとの親和性が高く、クラシックからロックまでオールマイティにこなす優れもの!フィット感も抜群!

サウンドハウスについては解説記事をご覧ください。

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