仕事がらライブを見に行ったりすると、そのライブハウスがどんなシステムで運用されているか気になって見てしまいます。
その中でも最初に見るのがスピーカーの配置の仕方。音のことを考えた配置になっているのか、あるいは単にスペースを確保するために適当に配置しているのか、所によっていろいろです。
置き方の悪いスピーカーを見ていると、少し配置を変えるだけで格段にオペレートが楽になるのにな、と思うことがあります。
では適切な配置とはどうすればいいのか。私が知っているスピーカーの配置方法について解説していきます。
スピーカーを最適に配置する上で必要なこと
音は波の一種です。最適な配置について説明する前に、音の性質について説明しておきます。
音の指向性
回析という現象をご存知でしょうか?波は障害物に当たった時に、折り返して裏側に回り込もうとします。このことを回析現象といい、波の周期が長いものほど回析は起こりやすくなります。
音も波であるため、この回析が発生します。そして周期が長い低域ほど回析が発生しやすくなります。現場で「低域が回る」というのはこの回析と反射が合わさって部屋の中に低域が残ってしまう現象のことを言います。
一方で高域になると回析は起こりにくくなり、音はまっすぐ前に進もうとします。
スピーカーの指向特性
下の図はEVのSX300というスピーカーの指向特性です。
エレクトロボイス製品紹介ページより抜粋
150Hzあたりまで水平・垂直方向とも360度とほぼ無指向ですが、周波数が高くなるほど角度が狭くなっていってます。
音の指向性の項目で、高域になるほど指向性が狭くなると説明しましたが、スピーカーの形状を工夫することで指向性はある程度コントロールできます。メーカーの設計に依るところがあるため、お使いになられているスピーカーの指向特性がどうなっているのかは取扱説明書で確認されてみてください。
ここでSX300の指向特性をもう一度見ていただくと、説明書きに-6dBという記載がされています。
これは、説明書の指向特性は-6dBになるポイントを書いているということで、例えば1kHzならば〇〇度で元の音より6dB低いということをあらわしています。
音圧レベルで-6dBというと音量はかなり小さくなります。PAをするときにはこの指向角度を意識して、お客がいる場所(サービスエリア)がスピーカーのカバーエリアに収まるように配置をする必要があります。
スピーカーの能率
能率の説明は別記事に記載していますのでそちらをどうぞ。
近年のPAに求められる音圧は高くなっていて、一番遠いところでも110dB以上は確保しておく必要があります。
音圧は距離が2倍になると-3dB、10倍になると-10dB、100mで-20dBと対数比例して小さくなっていくので、最大音圧レベル(SPL)が120dB(1m地点)のスピーカーだと110dBを確保できるのは直線方向で10mとなります。
それなりに広い空間でのPAならば、スピーカーの最大SPLは余裕を持って130dB欲しいところです。
壁の反射
室内の場合、スピーカーから出た音は反対側の壁に当たって反射をします。野外の場合、完全にフラットな空間であればいいのですが、たいてい向かいに建物や丘があったりしますので、音はそこで反射をします。
反射する際の反響特性は素材と形状でかなり変わってきます。ロック向けのライブハウスだと反射しないようにデッドな空間設計になっていることが多いですが、公民館や体育館などに仮設をした際などは反射が起こりやすくなります。
広告
スピーカーの配置が悪いと起こる問題と対処法
配置以外の問題があることも多いのですが、配置が悪いために起こりやすくなる現象がいくつかあります。
ハウリングしやすい
MCのマイクにスピーカーが思いっきり向いていたなんてのは論外ですが、そうでなくてもスピーカーが壁に近いところに配置されていると、ちょうど壁がバスレフのように機能して低域が回ってしまいます。低域が回ることで意図しない周波数のピーク・ディップが発生し、結果的にハウリングの原因になることがあります。
対象法
スピーカーを壁・床から少なくとも30cm以上は離してあげたほうがよいです。(できればもっと)
定位・位相に違和感がある
スピーカー前面から出た音が垂直に壁に当たると、反射してまっすぐスピーカーに戻ってきてしまいます。こうなると直接波に反射波が干渉してしまいます。位相が乱れる原因となり定位・音質の面で好ましくありません。
対象法
スピーカーを若干内側に向けてあげることで壁からの反射音がスピーカーに戻ってくるのを防ぐことができます。
中抜けする
広い会場でPAをした時に、前列真ん中がスピーカーの指向角度外になってしまってハイ落ちして聞こえてしまうことがあります。(低域は無指向性になっていくので聞こえる)
この現象を「中抜け」といいます。
対象法
スピーカーを2対向にして指向角度を大きくする・内側に向けてサブスピーカーを配置して高域をフォローするなどのケアが必要になってきます。
余談:ローが足りない・迫力がないときは?
配置とは関係ないのですが、野外でPAをすると、室内では起こっていた低域の反射がなくなります。音質上好ましいように思えますが、余分にパワーが必要になるためウーファー・パワーアンプが力不足になりやすくなります。また低域がステージに回ってしまってモニターの邪魔をしてしまうという問題も出てきます。
対象法
野外でのオペレートではステージへの低域の回り込みに注意しつつ、サブウーファーの追加を検討する必要が出てきます。
ステージに回り込んでしまうのはPAの課題でしたが、最近では指向性をコントロールして単一指向っぽくしたサブウーファーも販売されるようになりました。ステージへの回り込みが減るのに加えて、フロントへのエネルギーも増えるため、結果的に少ないパワーで必要な音圧を稼ぐことができます。
サウンドハウスさんの記事でQSCの指向性ウーファーについて書いてある記事を見つけました。前と後ろで音圧差が15dBもあるというのはウーファーでは考えられなかった数値です。いい時代になりました。
まとめ
スピーカーの配置は
- サービスエリアを指向角度内に収めつつ、十分な音圧が提供できるようにする
- 中抜けへのケアをする
- 壁からはできるだけ離す
- 少しだけ内側に向ける
- 野外ならばサブウーファーの追加を検討する